『カサブランカ』と『ミュンヘンへの夜行列車』のネタバレをしています。

カサブランカというのはイングリット・バーグマンが前の恋人であるハンフリー・ボガートと今の夫であるポール・ヘンリードのどちらを選ぶかというお話なんだが」

「撮影中も脚本が出来上がっていなかったんだろう。バークマンはボガートとヘンリードのどちらを愛する演技をすればよいのかわからなかったとか」

「ところが評論家のロジャー・エバートカサブランカの映像ソフトの音声解説の中で、この逸話に触れて、ボガートとヘンリードのどちらを選ぶかわからないなんてことはありえない。当時のハリウッド映画では、夫のある人間が他の男と結ばれる作品だと上映することはできなかった。つまりイングリット・バーグマンがポール・ヘンリードを捨ててハンフリー・ボガートと共に去るという結末はハナからありえなかったと」

「へえそうなんだ。しかしさポール・ヘンリードって俳優はバークマンやボガートと比べると格落ちって感じがしないか?」

「まあそう感じるのはバークマンやボガートがこの映画をきっかけに大スターの座を駆け上がっていったからかもしれない。スターになれなかったヘンリードが格落ちなのは確かだと思うけど」

「だろ。カサブランカでも全然印象にないもん。収容所から脱出した反ナチスの闘士という役柄だったね」

「口の悪いロジャー・エバートは戦後は東側で出世して市民を弾圧する立場になってるだろうというようなことを言っていたね。ところでポール・ヘンリードはカサブランカの2年前に公開された『ミュンヘンへの夜行列車』でも収容所から脱出した反ナチスの闘士の役なんだ」

タイプキャストってやつ?」

「違うと思うよ。『ミュンヘンへの夜行列車』はキャロル・リード監督作品でどうみてもドイツ人には見えないレックス・ハリソンがドイツの将校に変装してベルリンに潜入するんだ。それから『バルカン超特急』を見た人には印象に残っているだろうクリケットのことばかり考えてる二人組が同じ役で出てきてまた大活躍をするんだ。傑作とは言えないけど、面白い作品だ。でネタバレなんだけども、実はポール・ヘンリードはナチスのスパイなんだ。反ナチスだと信頼させてドイツへ亡命し、機密情報を持つ学者を拉致するという話なんだ。でね、『カサブランカ』でもこの設定だったら、僕好みの映画になったと思うんだ」

「ラストでヘンリードが実はナチスの手先だったと明らかになり、銃撃戦の末にボガートに倒される。そしてボガートとバーグマンが旅立ってハッピーエンドと?」

「どうだい?」

「全然ヒットしなかっただろうね」